2007年12月06日のアーカイブ
サブプライム・ローン危機を巧みに利用したヘッジファンドたち。サブプライム・ローンの危機的状況を事前に読み切り、その逆張りとも言える投資戦略で史上最高益を叩き出すファンドも出てきている。
サブプライム・ローン危機を逆手にとったヘッジファンド
アメリカ発のサブプライム・ローン危機が、世界の金融機関に未曾有の損失をもたらしている。大手の銀行や証券会社に留まらず、ヘッジファンドの間でも倒産を余儀なくされるケースが目立つようになった。
しかし中には、今回のサブプライム・ローン危機を逆手にとって、空前の利益を稼ぎ出しているヘッジファンドもある。折しも、『フォーブス』誌が2007年度の長者番付を発表した。2006年には10億ドル以上の金融資産を持つビリオネアは400人ほどであったが、今回は480人に増えていた。 同誌によれば、今回新たにランクインした大富豪の半分が、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドのマネージャーである。
ヘッジファンドのマネージャーの中で昨年最も大きな収入を得たのは、「ルネッサンス・テクノロジーズ」の創業者ジェームズ・シモンズ氏。
同氏は1988年のファンド創設以来、これまで平均して38%のリターンを維持しており、昨年は44%という驚異的な運用成績を上げた。その結果、彼が手にした成功報酬は17億ドル(約2040億円)という。これは、同じ時期の上場企業経営者の最高年収6億4700万ドルと比較しても、際立った高収入といえよう。このような破格の稼ぎ振りは、まさに芸術的な仕事としか言いようがない。
シカゴに本拠を構える「ヘッジ・ファンド・リサーチ」によれば、2007年第3四半期末までに、ヘッジファンド業界はサブプライム危機をものともせず、史上最高の1640億ドルもの新規資金を集めた。もちろん、中には失敗の波にさらわれたケースもある。
史上最強の自信作ファンド
これまでヘッジファンド業界において資金調達力で他を圧倒してきた「ゴールドマン・サックス」が、そうである。
昨年、ゴールドマン・サックスが鳴り物入りで投入したアルファ・ファンドが運用に躓き、60億ドルを失う可能性が出てきた。この新商品は、ゴールドマン・サックスが同業他社を含め過去の資金運用データを徹底的に解析し、確実に高いリターンを保障できる「史上最強の自信作」として売り出したもの。
なにしろ、市場で成功しているヘッジファンドのパターンをすべてコンピュータで徹底的に分析し、究極のクローン・ファンドに仕立て上げたといわれていた。それゆえ手数料や運用コストは安く抑えることが可能になったとさえ言っていたのに。
ところが、その宣伝文句とは裏腹に、このグローバル・アルファ・ファンドはあえなくサブプライム・ローン破綻の津波に飲み込まれ、このままでは100億ドルを超える損失もありうるほどの体たらく。ゴールドマン・サックスの看板を信用し、多額の資産運用を任せた投資家にとっては、かつてない失望をもたらす恐れが出てきた。
この危機的状況を潜り抜けようとし、ゴールドマン・サックスはアメリカのメディアを使った禁じ手に近い情報操作に手をつけ出した。それは2007年の11月半ばに発表した史上最高額のボーナス大盤振る舞いのニュースから始まった。何と一人7500万ドルを頭に、運用成績に応じて破格のボーナスをファンド・マネージャーたちに支払ったというもの。業績は悪くないとの演出だ。
逆張り投資戦略で史上最高益利益率550%
また、時を同じくして、ゴールドマン・サックスのOBたちが経営危機に陥ったシティ・グループやメリル・リンチの建て直しに取り組むことになったとか、ゴールドマン・サックス出身のポールソン財務長官やゼーリック世界銀行総裁らが、サブプライム・ローンの救済基金を設立するらしいといった情報が相次いで流された。
市場はこれらのニュースを好感し、他の金融大手が軒並み値を下げる中、ゴールドマン・サックスの株価のみ一挙に13%近くも跳ね上がったのである。このチャンスを逃さず、同社はすばやく値上がり分を売り抜け、アルファ・ファンドの損失をカバーしたというわけである。
とはいえ、市場を欺くかのような手法は賛否両論を巻き起こした。場合によっては、市場参加者の間に拭い難い不信感を煽ることにもなり、業界最大手のゴールドマン・サックスに対する評価を落としかねない。いわば、諸刃の剣のようなもの。そのような危険な賭けに出たゴールドマン・サックスの戦法はどこまで成功したといえるのだろうか。
一方、ゴールドマン・サックスとは対照的に、エクイティに特化したヘッジファンドの多くは、この10月31日締めの運用成績を見る限り、平均して13%を超える収益を稼ぎ出している。これは過去4年間において、最も高い収益率である。同じ時期、S&P500は平均4%の利益を生み出しているに過ぎない。その点、名前の通り、ヘッジを利かして驚異的な高収益を稼ぎ出しているヘッジファンドの活躍ぶりは注目に値する。
先に述べたジェームズ・シモンズ氏のファンド以外にも、目覚しい成績を上げているファンドは多い。例えば、ニューヨークに拠点を構える「ポールソン・アンド・カンパニー」。同社の運用額は110億ドルであるが、サブプライム・ローンの危機的状況を事前に読み切り、その逆張りとも言える投資戦略で利益率550%という史上最高益を叩き出した。
このファンドの創業マネージャーであるジョン・ポールソン氏は、多くの金融機関が見境も無く低所得者層に住宅ローンを貸し出している状況に危機感を抱き、早晩大きな金融破綻は避けられないと判断した。そこで住宅ローン会社及び不動産の値下がりに先手を打ち、大量の売り注文を出していた。この賢明な判断によって稼ぎ出した大量の収益を、すかさず石油、金、穀物などのコモデティや、外貨、その他新興市場向けの投資に回すことで、更なる利益拡大に成功したのである。
サブプライム・ローン危機のときジョージ・ソロスは…
同様の手法でサブプライム・ローン危機を巧みに乗り切ったヘッジファンドは数多く存在している。具体的に言えば、「ローン・ファイン・キャピタル」は35%の収益をあげた。「ディー・イー・ショー・カンパニー」は23%、「サード・ポイント・アドバイザーズ」は15%といった具合である。「ハービンガー・キャピタル・パートナーズ」も8%を超える運用益を生み出した。
これらのヘッジファンドに共通しているのは、住宅ローン会社が今後も破綻を続けるだろうと判断し、住宅バブルに早めに見切りをつけたこと。このままでは、住宅バブルに投資してきたヘッジファンドは1000億ドルを超える損失を被ることになる。かたや素早い軌道修正を行ったファンドは、金や穀物、石油、天然ガスなど資源バブルへの乗り換えを図って、大きな収益に結びつけたというわけだ。
実は「ヘッジファンドの帝王」と異名をとるジョージ・ソロス氏も密かに動いていた。
ソロス氏はサブプライム・ローン危機の波に真っ先に飲み込まれた住宅ローン大手の「カントリーワイド」の株式を買い集めたのである。米証券取引委員会の直近のデータによれば、ソロス氏は3400万ドルをカントリーワイドにつぎ込んだことが明らかになった。ソロス氏はカントリーワイドの株価の更なる値下がりを見越して、空売りで一儲けを目論んだに違いない。その手法が今回どこまで成功したかは不明だが、この業界は奥が深いといえよう。
ヘッジファンドの業界の中でも「勝ち組」と「負け組み」が
現在、世界には1万社近いヘッジファンドが利益を求めてうごめく。今回の金融危機によって勝ち組と負け組が明確に分かれることになるだろう。2007年の前半において、ヘッジファンド業界に新たに参入したファンド数は600に過ぎなかったことからも、その傾向は明らかだ。これは2003年以来最低の水準である。それだけ新規のヘッジファンドにとっては、逆風が吹き荒れているといえるだろう。
この業界で生き残るのは、以前にもまして厳しくなった。言い換えれば、ダーウィンの進化論がようやくヘッジファンドの世界でも当てはまる時代になったのかも知れない。ヘッジファンドに資産運用を任せる大手の年金基金や大学ファンド、また富裕層の間では、運用成績の悪いファンドから資産を引き上げ、成績の良いファンドに乗り換える動きが加速している。
要は、ヘッジファンドの業界の中でも大成功を収める一握りのファンド・マネージャーと、市場から退場を余儀なくされる敗退組みの二極化が進みだしたということだ。業界最大手の「マン・グループ」のピーター・クラークCEOによれば、「今年中に10社に1社は破綻する」 と言われるほど、淘汰の時代を迎えたヘッジファンド業界。資産運用先を選ぶ際には、ブランド名に惑わされず、ファンド・マネージャーの投資戦略をクールに判断する眼が求められる。
MoneyZine - 2007年12月05日
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